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調査・研究

管理職と一般社員の学びに関する定量調査
~リスキリング文化を社内に根付かせる管理職の行動とは~

リスキリングの文化を社内に広げるためには、まず社員一人ひとりが自己学習の必要性を認識し、継続的に学習することが欠かせない。ベネッセ教育総合研究所が実施した「管理職と一般社員の学びに関するアンケート調査」によると、企業に所属する社員2,884名の7割以上が自己学習の必要性を理解しているが、実際に自己学習を行っている管理職は半数以上いるものの、一般社員は半数以下であることがわかった。
次のステップに進むための鍵を握るのは、管理職の一般社員への働きかけではないかと仮説を立てて分析した結果、単に自己学習を奨励するだけでなく、管理職自身が学ぶ姿勢を共有することの重要性が浮かび上がってきた。

INDEX(目次)

自己学習における管理職と一般社員の間の認識や行動の「ギャップ」を調査

AIの普及やDXの推進により、従来のスキルだけでは業務への対応が難しくなり、リスキリングの重要性はますます高まっている。こうした社会の変化を受け、多くの社員が自己学習の必要性を認識している。

しかし、自己学習に対する意識や行動の面で、管理職と一般社員の間には大きなギャップが存在する可能性がある。そのズレは、社内にリスキリングの文化を根付かせるうえでの阻害要因となっているかもしれない。

こうした着眼点から、2024年12月に、社員規模500名以上でオンライン学習の提供や補助がある企業を対象とした調査(管理職調査※調査概要は記事下部に掲載)を実施した。(有効サンプルサイズは、管理職1,442名、一般社員1,442名、合計2,884名)。

自己学習の重要性は認識しているが、一般社員の6割は行動せず

本調査において、自己学習の必要性について尋ねたところ、「必要」「どちらかというと必要」という回答の合計は全体で77.6%に上った。内訳を見ると、管理職では85.4%、一般社員では69.7%となっている。管理職の方がより強く必要性を感じているものの、全体として多くの社員がリスキリングの重要性を理解していることがわかった。

管理職は約54%が自己学習に取り組むが、一般社員は約40%にとどまる

しかし、認識と行動の間にはギャップが存在することも調査から見えてきた。実際に「自身は自己学習に取り組んでいるか」という質問に、「行っている」「どちらかというと行っている」と回答した割合は、管理職で53.6%、一般社員で39.2%。一般社員の方が管理職に比較して、自己学習に取り組む割合は少なかった(図1)。

上記の結果から、管理職・一般社員のどちらにおいても、「自己学習の必要性を感じているが、実際には行動に移せていない」層が一定数存在することもわかった。

図1 自己学習の取り組み

図1 自己学習の取り組み
出典:ベネッセコーポレーション作成

管理職が学ぶ姿は、部下からは「見えていない」

次に、管理職と一般社員が互いの自己学習をどのように捉えているかを尋ねた。管理職に対し、部下である一般社員の自己学習状況を聞くと、「非常によく行っている」「よく行っている」「少し行っている」と回答した割合の合計は71.4%と高かった。一方、一般社員に対して同じ質問をしたところ、上司である管理職が自己学習を行っていると認識している割合は32.6%にとどまった。また、「わからない」と回答した割合は、一般社員で38.9%に上り、管理職の4.2%と比べて大幅に高かった(図2)。

この結果から、管理職が自己学習に取り組んでいても、部下である一般社員にはその姿が十分に伝わっていないことが浮かび上がった。

図2 自己学習の取り組みに関する管理職と一般社員の相互認識

図2 自己学習の取り組みに関する管理職と一般社員の相互認識
出典:ベネッセコーポレーション作成

管理職が学ぶ姿を見せると、部下の「学ばない理由」が減少

自己学習の取り組みについての相互認識に大きなギャップがあることがわかった。では、管理職が学ぶ姿を見せることで、一般社員の認識や行動はどのように変化するのか見てみる。

図3より、自己学習に取り組んでいない理由として「多忙で時間がない」「モチベーションがわかない」「新たなスキルが必要ない」は、あてはまると答える割合が高い。そこで、一般社員のうち、「上司が学習していると回答した層」(以下、上司学習あり)と「上司が学習していない」、もしくは「上司が学習しているかわからないと回答した層」(以下、上司学習なし+わからない)に分けて分析すると、いずれの理由についても、「上司学習あり」のほうが「あてはまる」と答える割合が少なかった(図3)。このことから、上司が学習する姿を部下に示すことで、一般社員の「学ばない理由」が減少する可能性があることがわかる。

図3 一般社員の自己学習しない理由(上司の自己学習の認識別)

図3 一般社員の自己学習しない理由(上司の自己学習の認識別)
出典:ベネッセコーポレーション作成

特に、「効果が明確ではない」「自己学習に関心がない」「会社が必要なスキルを明確にしていない」などの理由は、「上司学習あり」では大きく低下していた。こうした結果から、上司が学ぶ姿を通じて、学習意欲が高まったり、学習の必要性や求められるスキルが伝わったりする可能性が示唆された。

認識のギャップを埋める鍵は、管理職の行動を伴う働きかけにある

奨励したつもりが、部下には届いていないことも多い

一般社員に対して、どのように学習の必要性を伝えることが効果的なのだろうか。管理職へ、部下に自己学習を奨励しているかを聞いたところ、図4の管理職の通り、自己学習を「奨励している」「どちらかというと奨励している」と回答した割合の合計は72.2%に上った。ところが、一般社員に同じように「奨励されているかどうか」を聞くと、図4の一般社員の通り、「奨励されている」「どちらかというと奨励されている」と答えた割合は45.6%にとどまり、両者の認識に大きなギャップが見られた。この結果から、上司が自己学習を奨励しても、その意図が部下に十分には伝わっていない可能性があることが示唆される。

図4 自己学習の奨励に関する管理職と一般社員の相互認識

図4 自己学習の奨励に関する管理職と一般社員の相互認識
出典:ベネッセコーポレーション作成

上司が奨励するだけでは、部下の学びの促進には足りない

さらに、一般社員の回答のうち、上司の奨励の有無(「奨励している」「どちらかというと奨励している」とそれ以外)と、上司自身の学習の有無(「非常によく行っている」「よく行っている」「少し行っている」とそれ以外)が、一般社員自身の学習にどのように関係しているかを分析した。

その結果、一般社員が最も学習に取り組むのは「上司が学習を奨励し、かつ上司が学習している」場合で、その割合は66.6%にのぼった(図5)。一方、最も学習に取り組む割合が低いのは、「上司が学習を奨励せず、かつ上司が学習していない」場合で、26.6%であった。

注目すべきは、「上司が学習を奨励し、かつ上司が学習していない」場合、一般社員の学習率が38.3%にとどまっている点だ。また、「上司が学習を奨励し、かつ上司が学習していない」場合と「上司が学習を奨励しておらず、かつ上司が学習している」場合の一般社員の学習率に差がない。そこで、統計分析(※)をした結果、「上司が自己学習の奨励している」、「上司が自己学習していることを認識している」それぞれ効果があり、また、「上司が学習を奨励し、かつ上司も自らも学習している」場合と比較すると、それぞれ単独で行うよりも、両方とも実施した方がより効果的であることがわかった(図5)。

一般社員が自己学習の必要性を深く実感し行動に移せるようにするためには、単に上司が奨励するだけ、自ら学習するだけでは不十分といえそうだ。上司がミーティングなどの場で自身が学んだ内容を共有したり、業務にどのように活用したかを具体的に示したりしたうえで奨励することで、部下である一般社員に学びの重要性はより伝わるのではないだろうか。

※分散分析の補足:一般社員の学習の得点に対して分散分析を行ったところ、上司の奨励と上司自身の学習の有無の主効果(上司の奨励の有無:F(1, 1439) = 66.66, p < .001, η2=.043, 95%CI[0.025, 0.065]、上司自身の学習の有無の主効果:F(1, 1439) = 50.94, p < .001, η2=.033, 95%CI[0.017, 0.053])はともに0.1%水準で有意であり、効果量も一定以上認められた。一方、交互作用は有意ではなかった(F(1, 1438) = 2.55, p = .11)。Tukey法による多重比較により、「上司が学習を奨励し、かつ上司が学習している」場合はその他の場合と比べ、一般社員の学習得点の平均が0.1%水準で有意に高いことが示された。

(a)単純集計 (b)統計分析(分散分析)の結果

図5 一般社員の学習の実態(上司奨励および上司学習の有無別)
出典:ベネッセコーポレーション作成

【ケーススタディ】上司や会社の後押しで、業務時間中に自己学習が可能に

ここでケーススタディとして、国内電機メーカー・技術系部門の一般社員であるOさんが自己学習に取り組む姿を取り上げたい。

社員個人の成長は、最終的に会社全体の資産になる

クラウドサービスの開発のまとめ役を務めるOさんは、今後AIに注力するという部門の方針を受け、Udemy BusinessでAI関連の講座を中心に自己学習を進めている。もともとAIの知識やスキルの必要性を感じていたことに加え、上司である部長が自己学習に取り組む姿に刺激を受けたことが、学び始める大きなきっかけとなった。

会社や上司の協力によって業務時間内に自己学習の時間を確保できていることも、学習を継続する支えとなっている。こうした理解を得られている背景には、自己学習は個人の成長につながるだけでなく、最終的には会社全体の資産にもなるという認識が一般社員にも会社にもあるからだ。

個のスキルアップが部門全体の学びの風土につながる

現在、Oさんは、午前中に学習時間を設け、午後は業務に集中するスタイルを取り入れ、毎日少しずつでも学習の時間を確保するように心がけている。そうした自己学習を継続した結果、AI構築のためのコードの実装方法など高度な知識を習得。学んだ知識やスキルは、具体的なアイデアの創出やプロジェクトの推進に大いに役立ち、業務の生産性向上にもつながっている。さらに、Oさんのスキルアップは周囲にも良い影響を与え、部門全体に学びの風土が広がる一助となった。

管理職が率先して、社員が目標を持ち学び続けられる風土づくりを

調査結果やモデルケースから読み解けるのは、リスキリングの定着には管理職の学びへの姿勢や組織の風土づくりが重要であるということだ。管理職が自ら学び続ける姿勢を持ち、自己学習を奨励するとともに、自身の学びのプロセスや成果を部下と共有することで、その重要性や有用性がより伝わりやすくなると考えられる。

学びの推進で創造性や生産性に関わる「新しいチャレンジ」などが向上

調査を通じて、組織内での学習の推進がさまざまな具体的な成果につながることも明らかになっている。管理職・一般社員ともに、自己学習に取り組んでいる層では、「新しいことへのチャレンジ」「業務改善成果が得られた」などの創造性や生産性に関わる指標が特に向上している。中でも、管理職が積極的に学習に取り組んでいるケースでは、その上昇幅がより大きいことが確認された。

(6-1)管理職の学習成果  (6-2)一般社員の学習成果

図6 自己学習による成果
出典:ベネッセコーポレーション作成

学習のプロセスや成果が見える仕組みづくりが重要

これらの結果から、今後、一般社員の自己学習をさらに推進していくためには、管理職の働きかけがますます重要になるといえるだろう。まず、管理職自身が何をどのように学ぶのか、そして一般社員が具体的な学習目標を持って学び続けられるように、いかにサポートしていくのか。個々の学びの成果が、生産性の向上や事業成長にどのようにつながっているかを可視化する仕組みも重要になるはずだ。

こうしたテーマに対する明確な方針を打ち出し実践することにより、組織全体の学びの風土を高め、企業全体の成長につながっていくと期待できる。

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ベネッセコーポレーションがサービスを提供するUdemy Businessでは、DX人材育成を目的とした研修教材の提供に加えて、弊社が教育事業で培った研究知見を生かして、事業成長を見越したDX研修の設計や調査・分析のお手伝いをさせていただいています。ご関心のある方は、ぜひ下記までお問い合わせください。

調査概要

調査名称:管理職と一般社員の学びに関するアンケート調査
調査主体:ベネッセ教育総合研究所
調査委託先:マクロミル
調査方法:インターネットリサーチ
調査対象者:全国18~60歳の就業者(正社員のみ)
回答者数:2,884名(管理職1,442名、一般社員1442名)
割付方法:社員規模500人以上、管理職(課長・部長かつ部下あり)と一般社員(係長・一般かつ部下なし)を同数
調査期間:2024年12月6日~8日
スクリーニング条件:企業の教育投資あり
※本調査を引用いただく際は、以下を明記してください。

ベネッセ教育総合研究所. (2025). 管理職と一般社員の学びに関するアンケート調査. https://ufb.benesse.co.jp/news/research-03

執筆者

佐藤 徳紀(Tokunori Sato)
ベネッセ教育総合研究所 研究員
博⼠(⼯学)。2012年(株)ベネッセコーポレーションに⼊社後、中学⽣向けの理科教材の開発を担当した後、2016年6⽉からベネッセ教育総合研究所の研究員に着任。企業内大学やアルムナイネットワークの立ち上げ、社内提案制度のPMOなどを経験し、現在は、社会人や児童・生徒を対象としたチーム協働による創造性の研究、ならびに企業所属の従業員の学習に関する研究に従事。専門は、電気工学、科学教育、教育工学、創造性、組織行動。東京工科大学非常勤講師。関連サイトは以下。
https://benesse.jp/berd/aboutus/member.html#0112
https://benesse.jp/berd/special/creativity/lp/

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