時代の変化に対応できる「人と組織」へ。みずほFGの新人事戦略に学ぶキャリアデザイン
株式会社みずほフィナンシャルグループ
人材不足やグローバル化、デジタル化、そして働き方改革など、社会環境が大きく変わりつつあります。そのような状況の中、企業はどう変化に対応していけばいいのでしょうか。
2019年10月23日、東京ミッドタウン・ホールで開催された「PERSOL CONFERENCE 2019」では、「変革の時代における人材・組織マネジメントのアップデート」と題し、企業の「人と組織」を取り巻く最新の潮流について、13の講演が行われました。
その講演のひとつ「日本的雇用慣行の崩壊は、生涯学び続ける時代の号砲 – グローバルの先端事例に学ぶ、今後の人材育成戦略のあり方とは?」に、みずほフィナンシャルグループグローバルキャリア戦略部部長の松浪慶太氏が登壇。
パーソル総合研究所ラーニング事業本部長の高橋豊氏、ベネッセコーポレーションから大学・社会人事業開発部長、飯田智紀氏と、今後の人材育成戦略について講演しました。
INDEX
労働力不足には人材育成改革が求められている
冒頭は、パーソル総合研究所の高橋氏の課題提起から。日本型雇用慣行が衰退してきている現在、人材育成や社員の意識において、現状のままでは世の中の変化に対応できないのではないか、と高橋氏。
日本型雇用慣行とは、終身雇用、年功序列、企業別組合に代表されるような仕組みのこと。新卒一括採用で長期雇用が前提で、人材育成・人事制度もそれに基づいて設計されています。
しかし、最近では定年を前提としない採用が増えるなど、雇用形態は変化しています。パーソル総合研究所の「労働市場の未来推計 2030」では、若い世代の減少により、2030年には644万人の人手不足になるという推計結果も出ています。
この足りない部分を補うには、40歳以上のミドルと55歳以上のシニア人材を活用することが、ひとつの手段。この層にいかに勉強してもらうかが大切だと高橋氏は言います。今までの人材育成は若い層だけに手厚く行い、その後は管理職候補への教育といった程度で、他の人たちにはあまり教育を行ってきませんでした。
「しかし、一番問題なのは、日本人は学ぶ意欲がある人が少ないということ」と高橋氏。アジアの国々の中でも、日本人は積極的に新しいことを学んで仕事に就くことが少ないという調査結果もあります。日本の雇用慣行が変わり、労働力も減っていく中で、日本の競争力を高めるためには人材育成の改革が求められているのです。
大人の学びには「スキル定義」「仕組み化」「文化の醸成」が必要
続いて、ベネッセコーポレーションの飯田氏が講演を行いました。飯田氏は、社会人領域、リカレント教育の事業を担当し、大学のAIデータサイエンス教育、社会人教育の事業の立ち上げにも関わっています。
先ほどの高橋氏のお話で、日本はアジアで最も大人が学ばない国だという調査結果が紹介されました。このままではリカレント教育を定着させるのは難しいのではないかと飯田氏は言います。
国としては、Society5.0、人生100年時代、AI戦略といった動きがあり、企業ではDX人材、働き方改革、兼業・副業といった流れができています。
また、大学ではAIデータサイエンス教育が行われているという状況であるにも関わらず、大人が積極的に学ばないことに対してはどうしたらいいのか。飯田氏は、「リカレント教育の活性化の方程式」を実現することが、大人の学びにつながると提案。「スキル定義」「仕組み化」「文化の醸成」の3つをそろえることが重要であり、実現するための下支えになるのが、コンテンツと学習履歴データです。
多くの企業の人材育成支援サービスとしても採用されているUdemy(ユーデミー)などの学習ツールを活用し、「リカレント教育活性化の方程式」を回していくことが大切です。
日本のリカレント教育の活性化の方程式
スキル定義:このスキルでこの仕事ができるというように、スキルとジョブが連結するような定義
仕組み化:スキル定義を推奨し、インセンティブ設計などにつながる仕組み作り
文化の醸成:FUNの要素も絡めた、大人が学ぶことはいいことだという文化を日本全体で醸成する
金融イノベーションを生むためのみずほFGの人事戦略とは
登壇者3名のパネルディスカッションの前に、みずほフィナンシャルグループの松浪慶太氏から、同社での人事戦略を方針転換した背景についてお話がありました。
(みずほフィナンシャルグループは、銀行、信託、証券など様々な機能を有する金融グループですが、就中)これまでの銀行においては、決められたことを正確にやるということが重視されてきました。お金や信用を扱う業務であるため、そのような正確さによって信頼や信用が培われたというメリットがあったといいます。
「しかし、その反作用として画一的で同質性の高い組織風土であったのは否めません」と松浪氏。そのような組織ではイノベーションは生まれない、という認識があったと言います。そして、デジタル化、少子高齢化、グローバル化というメガトレンドのなかで、これまでの銀行のままでは構造的問題が出てきており、次世代金融への転換が必要だったのです。
松浪氏の言う「次世代金融」とは、金融そのものの価値を超えて、金融をめぐる新しい価値を創造し、お客さまとの新たなパートナーシップを構築すること。こういった考え方の背景には、顧客の価値観や生活様式の変化があると言います。そして、働く人の意識も変化し、人事戦略も大きく方針転換。閉じた社内の競争原理から、社員の成長・やりたい仕事へと舵を切りました。
また、社員の挑戦を後押しするような取り組みも進めており、社内外でやりたい仕事にチャレンジする「ジョブ公募」では、昨年比約1.5倍の820名が応募したそうです。
「みずほフィナンシャルグループの人事戦略でいうと、一丁目一番地はキャリアデザイン」と松浪氏。一人ひとりがキャリアオーナーシップを持ち、個性あるキャリアを育むためには、従来の人事が用意し提供するような画一的な教育研修では難しい。また環境変化が激しい中で会社側が全ての教育コンテンツを作成・調達し社員に提供することは限界があります。そこで、みずほフィナンシャルグループでは、学習のパーソナライズ化、デジタルラーニング化を進め、外部の豊富なコンテンツを活用するためにUdemyも導入。さらに、社内のエキスパティーズを活かしたE to E(Employee to Employee)(※)にも取り組もうとしています。
(※)教育・研修コンテンツを会社が選んで社員に提供するC to E(Company to Employee)型ではなく、社員が推奨・作成したコンテンツを積極的に活用するE to E(Employee to Employee)型へと転換。
「最終的にはカルチャーにまで広げ、自主、自律、挑戦といった動きを加速していきたい」と、みずほフィナンシャルグループの新しい人事戦略の今後についても語ってくださいました。
みずほFG松浪氏に聞く、新人事戦略の背景
イベント終了後、みずほフィナンシャルグループ松浪慶太氏にお話を聞くことができました。イベントでお話しされていた内容について、もう少し詳しく教えていただきます。
――人材育成・人事施策を変えていくのは、お客さまや時代の変化がきっかけということでした。
まず、経営戦略があって、それを支えるものとしての人事戦略があります。経営としては、世の中の変化を受けて変わらないといけないという状況なので、それに向けた人事戦略の転換は不可避です。
経営は強い危機感を持っています。デジタル化、少子高齢化、グローバル化といったメガトレンドを受け、伝統的な金融ビジネスだけでは今後の発展は見込めません。顧客が法人であれば一緒に新しい事業を考えその成長を支援する、顧客が個人であれば金融だけでなく医療介護などを含めた包括的なサービスを提案するといったような、金融+非金融領域のサービスも提供していく必要があります。
――人事改革を行うなかで、社内ではどのような反応があったのでしょうか?
新しい人事戦略としてはまだ始めたばかりなので、まだまだ手探りの状況もあります。しかし、先ほど述べた社内公募では過去最高の募集人数を集めましたし、異業種との合同研修の公募にも多くの社員が応募しているところを見ると、社員の挑戦意欲に手ごたえを感じています。
今の時代においては、多様性がバリューの源泉ですので、それをより広げていけるような会社にしたいと思っています。社内では、ERG(Employee Resource Group)という、同じ問題意識を持つ社員が自主的に業務外で集まって話し合ったり学びあったりする活動が行われています。女性活躍推進、テクノロジーの活用、LGBT&アライ、グローバル化推進、障がい理解といったようなテーマのグループがあり、会社は黒子として支援することで、自主的かつ多様なつながりが実現できつつあります。
――銀行・金融ならではのパーソナライズされた学びの難しさ・必要性を教えてください。
特に銀行・金融ならではのユニークな特徴があるわけではないと思います。従来は、規模を考えると画一的なほうが効率が良いということがありました。弊社は何万人という社員がいるので、物理的・技術的にパーソナライズできなかったという背景があります。それが時代の変化、テクノロジーの発展でできるようになりました。必要性という意味では、業界の差はないのではないでしょうか。
――社員にはどういった意識を持って働いてもらいたいと考えているのでしょうか。
自ら考え、動き、そして実現するということだと思います。やりたいことをやるために、自分で考えて動く、そして重要なのは実現することです。
――それができる環境を会社が作って、後押しする、ということですね。
そうです。挑戦を後押ししたい。挑戦した結果の失敗から学ぶこともあります。また、異文化に触れた気づきや学びも重要だと思っています。
時代の変化についていくための人材育成戦略を
時代の変化、顧客の変化により、どの企業も変革が必要となっています。そのためには、ミドル・シニア層も含めた、教育環境の整備が急務です。社員の意識変革だけでなく、企業の研修・育成方法も変えていく必要がありそうです。
今回は、主にみずほフィナンシャルグループの事例をもとにしたディスカッションでしたが、どんな企業でも参考になるような内容も多くありました。社員の意識、組織の人材育成戦略をどう変えていくべきかが、企業発展のカギとなりそうです。
130,000以上のオンラインコースの中から、職種とスキルに合った講座を選べるUdemyなら、今回のような「ミドル・シニア層も含めた教育環境の整備」といった課題を解決するツールとしてお役立ていただけます。
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