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調査・研究

村田製作所との共同調査
~学習する組織を実現し、「組織成果」の創出に有効な「組織学習」とは〜

公開 2025/3/28

株式会社村田製作所では、独自のDX人材育成コースを設置するなどして、個人の学びを組織に生かすための施策を実施しています。前回ではその取り組みを紹介しましたが、DX人材育成コースの効果を最大化するために、ベネッセ教育総合研究所と村田製作所は、2024年11月に共同調査「組織学習と組織成果の関係性に関する調査」を実施しました。同調査の結果から見えてきた「個人の学び」や「組織の学習」(以下、組織学習)を「組織の成果」(以下、組織成果)へとつなげるポイントについて、ベネッセ教育総合研究所の佐藤徳紀研究員が報告します。

※本記事の内容はニュースリリースでも発表しています。

2025年03月25日公開
ベネッセと村田製作所 「学び」と「組織成果」の関連性に関する共同調査結果を発表

~組織成果創出には「組織学習」「心理的安全性」「ラーニングカルチャー」が鍵~
https://blog.benesse.ne.jp/bh/ja/news/20250325_release.pdf

INDEX(目次):

導入:学びのROIを高め、「組織成果」につなげるには

企業における人材育成は、従業員のキャリア開発やエンゲージメントの向上だけを目的とするものではありません。人的資本経営を促進し、企業の中長期的なROI(投資利益率)やROE(自己資本利益率)を高めるための重要な経営戦略の1つです。人財育成への投資が適切に行われることで、企業の収益力・競争力が強化され、最終的には企業価値の向上につながります。

村田製作所と共同調査を開始

人材育成におけるROIを高めるためには、個人の学びを組織の力へとつなげていくことが不可欠です。ベネッセ教育総合研究所では、「個人の学び」を「組織成果」につなげるためには「組織学習」が有効であると仮説を立てました(図1)。社内の学習環境を整え、学習者を増やし、チームで学び合う場を設けることで、学んだ知識が業務で活用され、業績の質の向上や新規ビジネスの創出といった「組織成果」が得られると考えています。

図1 個人の学習が組織の成果につながる5段階の仮説

図1 個人の学習が組織の成果につながる5段階の仮説
出典:ベネッセコーポレーション

ただ、国内でこれまで「個人の学習」、「組織学習」、「組織成果」の関連を検証した研究はあまり多くありませんでした。そこで、村田製作所において「『個人の学び』や『組織学習』は、『組織成果』を高める要因としてどのように機能するのか」「『個人の学び』や『組織学習』を推進することで、どのような『組織成果』が得られるのか」を明らかにするために、共同調査を行いました。今回は調査結果の一部を報告します。

調査概要:組織学習とは何か

2024年11月11日から21日まで、村田製作所において「個人の学習」、「組織学習」、「組織成果」の関連を検証する調査を実施しました。調査対象者は、以下の通りです。(調査概要は記事下部に掲載)

<調査対象者>
村田製作所におけるUdemy Business利用者のうち2,089名
※分析データ:2024年1~8月に「学習経験あり」に該当する回答を、ある複数人数のチームごとに平均値化して作成(なおチームの数は、調査対象人数には関係が無く、ランダムな数値)

今回の調査における「組織学習」は、組織の構成員の全員が学ぶという意味ではなく、「組織を一人の人格と見立てたときに組織(人)が成長すること(組織が変化すること)」を意味する学術用語を用いて、先行研究により「情報獲得」「情報分配」「情報解釈」「情報統合」「情報記憶」の5つの構成要素からなるものと定義しました(図2)。個人が獲得した知識を組織内で共有し、解釈、統合、記憶することで、組織の成果につなげていく状態です。

図2 「組織学習」の構成要素

図2 「組織学習」の構成要素
出典:先行研究(Flores et al., 2012; 安藤 & 荒木, 2022; 石井 et al., 2020)を参考に筆者作成

調査では、それら5つの構成要素を踏まえ、「組織学習」に関するアンケートを作成し、同社でUdemy Businessを利用している従業員に回答してもらいました。分析では、「組織学習」との関連を見るため、各チームに所属している従業員のみの数値を扱いました。

なお、「組織学習」には5つの構成要素があると定義し、5因子を想定して分析しましたが、「情報獲得」については回答結果が1つの因子にまとまらなかったため(探索的因子分析による解釈)今回は除外し、4つの因子で分析することにしました。また、因子の信頼性の観点から項目を調整しています(同様の解釈から)。

また、本報告は単一の調査データを分析したものであり、因果関係はあくまでも仮定となります。

報告1:成果を生み出す組織の特徴とは(「組織成果」と「組織学習」の関係)

組織における知識の共有や活用が、「組織成果」につながる

調査の結果、「組織学習」は「組織成果」を促進する可能性があることがわかりました(図3)。特に「組織学習」の中でも、具体的には、獲得した知識を組織に共有する「分配」、知識を実際に使ってみる「解釈」、知識を将来の使用のために蓄積していく「記憶」との関連が確認され、それらを促進することで「組織成果」の向上につながる可能性が明らかになりました。

図3 「組織成果」を促進する「組織学習」の分析結果

図3 「組織成果」を促進する「組織学習」の分析結果
出典:筆者作成

報告2:「個人の学び」を「組織学習」につなげるポイントとは(「個人の学び」と「組織学習」の関係)

「組織学習」を促進する重要な要素である「心理的安全性」

では、どのような組織の状態が「組織学習」を促進するのでしょうか。今回の調査では、「組織学習」に関連を与える要素を分析するため、関わりがあると予想される「学習推進(スキル獲得のためについての個人の意識や組織の取り組み)」「業務成果(学習結果を業務や改善に生かせたか)」「心理的安全性」との関係を調べました(図4)。

図4 調査設計

図4 調査設計
出典:筆者作成

まず、「学習推進」「心理的安全性」と「組織学習」との関連の分析の結果、関連が強かったのは、「心理的安全性」でした(図5-1)。職場において、「失敗しても問題ない」といった心理的安全性が確保されている場合、「組織学習」が促進される可能性が高いことがわかりました。また、「学習推進」は「組織学習」の「分配」や「統合」への関連の可能性も確認できました(図5-1)。

図5-1 「組織学習」を促進する要素(学習推進と心理的安全性)

図5-1 「組織学習」を促進する要素(学習推進と心理的安全性)
出典:筆者作成

次に、「業務成果」と「組織学習」との関連を分析すると、「組織学習」の「分配」「統合」「記憶」への関連が見られました(図5-2)。「業務成果」は学習による影響を想定した回答であるため、関連する成果を出しているチームほど、「組織学習」が活発である可能性を示しています。

図5-2 「組織学習」を促進する要素(業務成果)

図5-2 「組織学習」を促進する要素(業務成果)
出典:筆者作成

「個人の学び」への期待や支援が「組織学習」に関連

次に「個人の学び」に着目して(「学習推進」「業務成果」の関連項目のみ)、「組織学習」との関連を見ることにしました。今回の調査では、「個人の学び」を7つの個別項目に分け、それぞれ「組織学習」との関連を検証しました(図6)。

図6 「個人の学び」に関連する7つの項目
出典:筆者作成

その結果、「学習期待(あなたご自身は、職場・上司からどの程度新たなスキルの獲得を期待されていると思いますか)」「学習サポート(あなたがスキル獲得のための学びを行っていた際、会社や職場からのサポートや働きかけがあったか)」「学習継続意向(あなたは今後も、継続してスキル獲得のための学びに取り組みたいと考えていますか)」の項目で、「組織学習」との関連が見られました(図7-1、7-2)。

図7-1 「組織学習」と「個人の学習」の関連(全体)

図7-1 「組織学習」と「個人の学習」の関連(全体)
出典:筆者作成

図7-2 「組織学習」と「個人の学習」の関連(まとめ)

図7-2 「組織学習」と「個人の学習」の関連(まとめ)
出典:筆者作成

ここまでの分析結果から、「学習推進」は学びによる「業務成果」に関連しますが、一方、個人の「業務成果」だけを上げても組織としての変化である「組織学習」には十分につながらず、個人の学びを組織的に活かすためには、職場の「心理的安全性」を高める必要がある可能性を示唆しています。

「ラーニングカルチャー」の醸成が重要

共同調査の結果から、個人が獲得した知識を組織の成果につなげていくための、企業における学び方を改善するポイントが見えてきました。「心理的安全性」、「個人の学び」への期待や支援など、個人だけではない組織(チーム)の関わりが重要だということです。一方で、学習促進のために実施している施策(例えば、学習習慣や目的)が、必ずしも組織の変化につながっていない可能性があることもわかりました(図7-2)。「個人の学び」を「組織学習」に生かし、「組織成果」につなげるためには、組織が「個人の学び」を推進しながら、学びの成果を共有したり、活用したりする場を設けるなどの施策を行うことで、組織内にラーニングカルチャーを醸成していくことが重要だと考えられます。

まとめ:「個人の学び」と「組織学習」を推進し、未来を切り開く

本調査の結果、「組織学習」が「組織成果」を促進し、「個人の学び」をサポートすることが「組織学習」につながる可能性が見えてきました。以前報告した調査結果(ベネッセ教育総合研究所, 2025)を踏まえると、今から始められる具体的な取り組みには、次のような例が考えられます。

「個人の学習」と「組織学習」を推進する具体的な取り組み例

  • 「個人の学び」の推奨に有効なのは→個人で学習するきっかけの提供
    スキルアセスメントやスキルの棚卸しの機会の提供
    学習につながる機会(勉強会や研修)への積極的な参加促進
  • 「組織学習」の推奨に有効なのは→学んだスキルを活用する機会の提供
    学んだスキルを共有する場の設置(社内プレゼンや報告会など)
    ジョブローテーション、社内ギグワーク(単発で他部署の業務を兼務すること)やプロジェクトベースの参加機会
    学習者同士が交流する場・コミュニティの支援・提供

*****

ベネッセ教育総合研究所では、村田製作所と上記の調査のほか、エンゲージメントの関連、学習頻度と個人の業務成果との関連の分析から学習者の特徴をつかむクラスター分析など、企業の課題に合わせた調査・分析の支援もしています(図8)。今後、上記のような支援を拡大予定です。調査内容の詳細や連携に関するご相談は、以下までお問い合わせください。

(a)組織の課題理解度とエンゲージメントの関係  (b)個人の業務成果と学習頻度の関係
図8  村田製作所との共同調査の分析結果例
出典:ベネッセコーポレーション作成

調査概要

調査名称:組織学習と組織成果の関係性に関する調査
調査主体:ベネッセ教育総合研究所・村田製作所
調査方法:村田製作所社内のアンケートフォーム
調査期間:2024年11月11日~21日
対象者:村田製作所におけるUdemy Business利用者のうち2,089名
分析データ:2024年1~8月に「学習あり」とした約500チームごとに回答を平均値化(チームの数は調査対象人数には関係がなく、ランダムな数値)

※本調査を引用いただく際は、以下を明記してください。

ベネッセ教育総合研究所・村田製作所. (2025). 組織学習と組織成果の関係性に関する調査. https://ufb.benesse.co.jp/news/research-06

参考文献

Flores, L. G., Zheng, W., Rau, D., & Thomas, C. H. (2012). Organizational Learning: Subprocess Identification, Construct Validation, and an Empirical Test of Cultural Antecedents. Journal of Management, 38(2), 640–667. https://doi.org/10.1177/0149206310384631

ベネッセ教育総合研究所. (2025). 企業における学びに関する定量調査. https://ufb.benesse.co.jp/news/research-01

安藤史江, & 荒木淳子. (2022). 組織学習尺度の開発の試み : Flores et al. (2012)による尺度との比較を通じて. 南山経営研究, 36(3), 277–295.

石井馨子, 武村雪絵, 市川奈央子, 國江慶子, & 木田亮平. (2020). 日本語版組織学習サブプロセス測定尺度の信頼性・妥当性の検証. 日本看護管理学会誌, 24(1), 63–71. https://doi.org/10.19012/janap.24.1_63

執筆者

佐藤 徳紀(Tokunori Sato)
ベネッセ教育総合研究所 研究員
博⼠(⼯学)。2012年(株)ベネッセコーポレーションに⼊社、中学⽣向けの理科教材の開発を担当した後、2016年6⽉からベネッセ教育総合研究所の研究員に着任。企業内大学やアルムナイネットワークの立ち上げ、社内提案制度のPMOなどを経験し、現在は、社会人や児童・生徒を対象とした探究やチーム協働による創造性の研究、ならびに企業所属の従業員の学習に関する研究に従事。専門は、電気工学、科学教育、教育工学、創造性、組織行動。東京工科大学非常勤講師。関連サイトは以下。
https://benesse.jp/berd/aboutus/member.html#0112
https://benesse.jp/berd/special/creativity/lp/

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